修行(雲水の生活)

参堂入衆の前晩
さんどうにっしゅのぜんばん

 庭詰、旦過詰。五日間の人物試験ともいうべき、僧堂掛搭のための懇願期間は緊張の連続であった。五日目の晩に旦過寮の障子が静かに開いた。「こちらへ」と案内者に導かれて、彼は僧堂の取締役である知客っさんに面接する。
 知客っさんは僧堂の統轄者で、副司(会計)の役も兼任している。三十がらみの古参雲水で、一癖二癖もありそうなつら構え。洗いざらされた木綿衣もあせて、紺色だけが残っている。一見して久参底の御仁という風格がにじみ出ている。
 彼の居室を副司寮ともいう。飾りけのない、さっぱりというよりも、むしろ殺風景な部屋である。敷居ぎわに座り、「お願いします」と声をかければ、響きに応じるがごとく、「ハイッ」という返事が返ってくる。
 障子を開けて、深々と一礼する。中を見ると、前に警策という四尺くらいの棒を置き、提灯と称する手行灯に灯をともし、薄暗い中に座っている。そこはかとなく威圧が感じられる。室に入って、知客っさんの前に座り、額を疊につけた姿勢でつぎの言葉を待つ。
「再三、貴士の掛搭をお断りしたが、如法に庭詰などを過ごしたことでもあり、願心のほども知った。よって、明朝、参堂(雲水の仲間入り)を許す。授業寺の和尚さまからお閑をいただいて修行に来たのだから、道場の規矩を守り、専一に己事究明(真理をきわめること)に努力しないときは、即刻下山してもらう」
と、いちおうの訓戒と、大事了畢(己事究明)までは決して下山しないことを誓約させられて、引き下がる。今までの苦労を忘れ、ホッとする瞬間でもある。